精神科訪問看護の患者さんと聞いて、どのような方を思い浮かべますか。精神科訪問看護は10代の若者から高齢者まで幅広い世代の患者さんに提供するサービスで、さまざまな症状を抱える方が看護の対象です。
ただし精神科訪問看護のサービスを提供するには、一定の条件を満たす必要があります。本記事では、精神科訪問看護の利用対象となる方と利用者の主な疾患、精神科訪問看護師の仕事内容などを説明します。本記事を読んで、どのような方に精神科訪問看護のサービスを提供できるのか理解しましょう。
患者さんが新たに精神科訪問看護を利用するには、現在精神科や心療内科に通院していることが前提になります。年齢に対する制限はなく、就労中の方でも利用できます。
ここではすでに精神科や心療内科への通院実績がある方が、どのような診断や判断を受けると精神科訪問看護の利用対象になるのかを、2つの項目に分けて見ていきましょう。
患者さんが精神科訪問看護を利用できる条件の一つに、医師から精神疾患と診断されたケースが挙げられます。
患者さんが精神科や心療内科の医師から精神疾患があると診断を受け、医師より「精神科訪問看護指示書」が発行された場合、精神科訪問看護の利用対象となります。精神訪問看護には医療保険が使える場合と介護保険が使える場合があり、この精神科訪問看護指示書は、医療保険・介護保険どちらの利用であっても必要です。
患者さんは精神科訪問看護指示書が発行されたら、精神科訪問看護ステーションに指示書を提出します。精神科訪問看護ステーションは、指示書が問題なく受理された後、患者さんとの面談などを経て、ケアプランや訪問看護計画書に基づいた精神科訪問看護サービスを提供します。
医師から具体的な精神疾患の診断をされていないものの睡眠障害が認められたり、自宅療養が必要だと判断されたりすると、患者さんの日常生活の質を向上させるために精神科訪問看護のケアやサポートを提供できます。ケガで自宅療養をしている患者さんで、孤独感を覚えている方なども含まれるのが特徴です。
これらのケースでも、患者さんは医師が発行した精神科訪問看護指示書を訪問看護ステーションへ提出するなど、前述した手続きを取る必要があります。
精神科訪問看護の利用者は、それぞれ異なる精神疾患を持っています。ここでは精神科訪問看護の患者さんが持つ主な疾患を4つ説明します。
精神科訪問看護の患者さんの主な疾患の一つは、うつ病・双極性障害です。
うつ病や双極性障害は気分障害の一つです。うつ病は憂うつな気分や何をしても楽しくない状態が何週間も続く病気のことを指します。
双極性障害は躁うつ病とも呼ばれるもので、気分が高揚してテンションが高くなる「躁状態」と、無気力な「うつ状態」を交互に繰り返します。躁状態のときは患者さんの気分が良く、急に高額な買い物をしたり睡眠を取らずに精力的に活動してしまったりするのが特徴です。加えて普段より饒舌になる、自尊心が肥大するなどの症状も見られます。患者さん自身が双極性障害を患っていることを自覚していないケースもあるでしょう。
精神科訪問看護師は、患者さんの精神状態を定期的に観察し、気分が変動する波をキャッチして在宅ケアの早期対応に役立てる必要があります。
※参考:厚生労働省.「うつ病」
※参考:e-ヘルスネット(厚生労働省).「双極性障害」
精神科訪問看護の利用者の主な疾患の一つに、統合失調症も挙げられます。
統合失調症には陽性症状と陰性症状の2つの症状があり、患者さんの行動や気分が症状に影響され、人間関係にも支障を及ぼすことがあるのが特徴です。
陽性症状には主に幻覚と妄想があり、患者さん本人にしか聞こえないネガティブな内容の幻聴症状が現れます。実際に起きていないのに「誰かに悪口を言われている」「自分が誰かに追われている」といった被害妄想を抱いてしまう方もいるでしょう。
陰性症状で現れるのは、患者さんの感情表現の平板化や意欲の低下、倦怠感などの症状です。
精神科訪問看護師は統合失調症を持つ患者さんに対し、症状の観察や服薬管理を行い、患者さんの自立した生活をサポートします。
※参考:厚生労働省.「統合失調症」
薬物依存症やアルコール依存症も、精神科訪問看護の利用者の主な疾患に含まれます。
薬物依存症とは、患者さんが大麻や覚せい剤、シンナーやその他のドラッグなどの薬物に依存している状態を指します。またアルコール依存症は、その名の通り飲酒によるアルコール摂取に強い依存や中毒症状を引き起こしている状態です。
患者さんは薬物やアルコールを摂取する意思を自分でコントロールできないのが特徴です。これらの依存が深まると、自己制御が困難になり、社会生活にも影響を及ぼしてしまいます。
このような依存症を抱えている方の在宅ケアでは、精神科訪問看護師が薬物の管理や断酒を管理し、依存行動の監視をしたり依存症が起きる原因の一つであるストレス要因の特定をしたりして、サポートをします。
※参考:e-ヘルスネット(厚生労働省).「薬物依存」
※参考:e-ヘルスネット(厚生労働省).「アルコール依存症」
発達障害も精神科訪問看護の利用者の主な疾患の一つです。発達障害には、知的障害や自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(LD)、チック症などが含まれます。患者さんは生まれつき障害を持っているケースが多く、情緒・行動面においてさまざまな特徴が見られます。例えば自閉症スペクトラム症は、対人関係や相手とのコミュニケーションに困難が生じやすい障害です。患者さんの興味の対象の範囲が狭く、特定の物に固執しやすい傾向もみられるでしょう。また注意欠如・多動症は主に多動や不注意、衝動性が特徴の障害です。患者さんに落ち着きがなく常に動き回っていたり、注意力が散漫になったりする傾向が見られます。患者さんがあまり深く考えず、衝動に駆られた行動を起こしてしまう一面もあるでしょう。発達障害を持っていると、社会生活を送る上で行動や対応に困難を伴うことが多くなります。そのため精神科訪問看護師が患者さんの行動の管理やリハビリテーションを実施し、自立した生活を目指した生活支援を行います。
精神科訪問看護師の仕事内容には、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。ここでは利用者に対する具体的な仕事内容を4つ説明します。
精神科訪問看護師は、精神に疾患を持つ患者さんだけではなく、患者さんと生活したりサポートをしたりする家族ともコミュニケーションを取ります。
患者さんが精神科訪問看護師よりも接する時間が長いのは、同居している家族です。精神科訪問看護師が家族と積極的にコミュニケーションを取ることで、家族に患者さんが持つ精神疾患の理解を深めてもらい、ケアやサポートに協力してもらいやすい環境を作ります。
また患者さんの精神疾患が重い場合、家族がどう接して良いか分からず、戸惑ったり悩んだりするケースも少なくありません。精神疾患は対人関係のストレスで再発しやすい傾向があるため、在宅ケアでは患者さんと家族がお互いにリラックスして過ごせる時間を確保することも必要です。
精神科訪問看護師は家族の変化をキャッチして悩みを早期解決し、患者さんと家族が円滑な関係を保ちやすいようにサポートする役目を果たします。
家族と患者さんの関係性を良好に保てるように、精神科訪問看護師が双方とのコミュニケーションを通じ、在宅ケアの環境を整えます。
患者さんの内服管理も精神科訪問看護の仕事内容の一つです。
患者さんにスケジュールに沿った正しい服薬を行ってもらうことで、患者さんの精神状態の安定につながります。しかし患者さんの中には服薬の自己管理が難しく、過剰摂取や服薬の拒否をしてしまう方もいます。
そこで精神科訪問看護師が患者さんの服薬スケジュールを把握し、患者さんと相談しながら内服管理を行うことが重要です。患者さんを訪問する際にきちんと服薬ができているかを確認したり、同居している家族の助けを借りて内服管理を行ったりするケースもあります。
また精神科訪問看護師が患者さんの服用している薬の副作用を細かく理解し、副作用が出過ぎていないかを観察するのも大切な役目です。
患者さんのセルフケア能力に合わせた支援を行い、生活環境を整えていくサポートを行うのも、精神科訪問看護師の大切な仕事内容です。
具体的なセルフケアの内容は、患者さんの身だしなみや身の回りの掃除、排便管理などです。患者さんが少しでも自立した日常生活が送れるように、精神科訪問看護師が支援を行う必要があります。
例えば、身だしなみを整えるのが苦手な患者さんの場合、身だしなみのチェックを行い、どのようにしたら患者さんに身だしなみを整える習慣が定着するかを一緒に考えていきます。
患者さんの精神状態に応じて、社会復帰をするために活用できる公的制度を紹介したり、就労移行支援を受講するサポートをしたりすることも精神科訪問看護師の仕事の一部です。公的制度を紹介して終わりではなく、患者さんが社会復帰に向けてどのように就労をしているか進捗確認や状況把握を行います。患者さんを応援しながらサポートを継続することも、精神科訪問看護師の大切な役目です。
本記事では、精神科訪問看護の利用対象者とその利用者の主な疾患、精神科訪問看護師の仕事内容を解説しました。精神科訪問看護師が患者さんに対してできるケアや支援などの仕事内容は多岐にわたります。
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