近年、精神に疾患を持つ患者さんをケアする場が、医療機関から患者さんの自宅へと移行しています。その流れを受けて需要が高まっているのが、患者さんの自宅で在宅ケアを行う「精神科訪問看護師」です。
しかし精神科訪問看護師には具体的にどのような仕事内容があるのか、また今後のキャリアとして選んだ際に将来性があるのか分からず、漠然とした不安を持っている方もいるでしょう。
そこで本記事では、精神科訪問看護の定義や役割と将来性がある理由、仕事で身に付く能力やスキルなどを解説します。精神科訪問看護に興味がある方や、キャリアチェンジを考えている方は、本記事を読んで精神科訪問看護師の仕事や将来性について学びましょう。
精神科訪問看護とは?
精神科訪問看護とは、精神に疾患を持つ患者さんの自宅を訪問して在宅ケアを行うサービスです。一般的に、精神科訪問看護師や作業療法士などの専門知識や技術を持つ職員が訪問し、さまざまなサポートを提供します。
具体的なケアの内容は、患者さんの精神疾患の病状観察や問診、服薬管理、急性増悪時の対応などです。また精神に疾患を持つ患者さんが社会生活に参加するために活用できる社会福祉の提案や、生活面でのサポートなども行います。
さらに精神科訪問看護師は主治医、保健師などの医療関係者と連携し、より良い在宅ケアの提供に務めたり、患者さんや家族が持つ在宅ケアに対する悩みや治療への不安などを解決したりする役割も担っています。
精神科訪問看護師に将来性がある主な理由には、精神に疾患を持つ患者さんが増加していることと、地域包括ケアシステムの推進が進められていることの2つの理由が挙げられます。それぞれの理由を詳しく見ていきましょう。
精神科訪問看護師に将来性がある理由の一つに、精神に疾患を抱える患者数の増加が挙げられます。
厚生労働省がまとめた「精神疾患を有する総患者数の推移」によると、2002年の時点で約258万人だった精神疾患を持つ患者数は、2017年の段階では約419万人に上っています。
また認知症(アルツハイマー病)の患者数は2017年の時点で2002年よりも約7.3倍、躁うつを含む気分・感情障害の患者数は約1.8倍も増えており、その増加率は顕著です。
精神疾患を持つ患者数の増加に反して、精神疾患を持つ入院患者数は2002年の約35万人から2017年は約30万人と、減少傾向にあります。このことから精神疾患を持つ患者さんの治療は、病院から在宅ケアに移行していることが伺えます。今後も精神科訪問看護が果たす役割は大きいといえるでしょう。
※参考:厚生労働省.「精神疾患を有する総患者数の推移」.「精神疾患を有する外来患者数の推移(疾患別内訳)」.「入院形態別在院患者数の推移」
精神科訪問看護に将来性がある理由には、厚生労働省が地域包括ケアシステムを推進していることも影響しています。
地域包括ケアシステムとは、患者さんが住み慣れた地域で自分らしく人生を全うできるように、住まいや医療、介護、予防、生活支援などの面からサポートするシステムです。厚生労働省は団塊の世代が75歳以上になる2025年を目処に、市町村や都道府県が地域の特性に基づくさまざまな仕組み作りを推進しています。
患者さん一人ひとりが持つ「住み慣れた家で好きな物に囲まれた生活が送りたい」「家族に近い場所で療養したい」という思いをくんで実現するのも地域包括ケアシステムの目的の一つです。
地域包括ケアシステムの推進では、患者さんの自宅を訪問して在宅ケアや生活のサポートを行う精神科訪問看護師の存在が大きいため、将来的な仕事の需要も増えていくといえます。
ここでは、精神科訪問看護師が患者さんとその家族に対して果たす具体的な役割を5つ紹介します。
精神科訪問看護師の役割の一つは、コミュニケーションを通じて患者さんの現在の精神状態の観察を行うことです。
精神科訪問看護師は、コミュニケーションの過程で声かけをしたり会話をしたりして、患者さんの精神状態に関するさまざまな情報を引き出していきます。一般的に精神疾患は疾病や疾傷と異なり、具体的な症状が目に見えない場合があるため、精神科訪問看護ではコミュニケーションによる精神症状の観察が多くなります。
精神科訪問看護師は、患者さんの前回の表情や態度なども参考にしながら、些細な変化を捉えられるような観察を行わなければなりません。
精神科訪問看護師の役割には、内服管理も含まれます。
精神に疾患を持つ患者さんの病状を悪化させないために、定められた時間や量を守った服薬は大切です。
しかし患者さんの中には薬の副作用が重くて服薬を辞めてしまう方や、精神疾患への病識がなく自己判断で服薬を辞めてしまう方もいます。また患者さん本人は精神状態が回復していると感じていても、精神疾患の悪化や再発を予防する観点から服薬を行っているケースもあります。
そのため精神科訪問看護師が患者さんに服薬の意味や効果の説明を行い、適切な服薬管理を行うことが大切です。
他職種とのケアの連携も、精神科訪問看護師の役割の一つです。
精神科訪問看護師は患者さんの精神状態を細かく観察し、必要に応じて主治医などの医療チームと連携して患者さんに適したケアを提供します。精神科訪問看護師が患者さんの些細な変化を早い段階で医療チームに共有することで、患者さんの症状悪化を防ぐことにつながるでしょう。
精神科訪問看護師は医療チームと連携しながら、患者さんと医療チームの架け橋的な存在として、より良い在宅ケアの提供を目指すことが求められます。
社会資源の活用支援も精神科訪問看護師の大切な役割の一つです。
患者さんの自宅は病院や医療機関と異なり、在宅ケアに活用できる資源やリソースが限られています。そのため精神に疾患を持つ患者さんが自宅で日常生活を送ったり、患者さんの家族が在宅ケアを行ったりする際は、困難を伴う場面もあるでしょう。
そのため精神科訪問看護師が、患者さんに合った福祉サービスや相談窓口など社会資源の利用を提案し、より快適な生活を送れるようにサポートする必要があります。
患者さんの生活環境や精神疾患の症状をよく理解している精神科訪問看護師が、患者さんとその家族に寄り添った在宅ケアを実現する手段として、社会資源の活用支援を行うことが大切です。
患者さんの症状の悪化や再入院の防止も、精神科訪問看護師の大切な役割の一つです。精神科訪問看護師は、日々のコミュニケーションを通じて患者さんの精神状態の変化や症状の悪化などをキャッチし、再入院を防止できるような予防ケアを行わなければなりません。精神状態の悪化は患者さん本人が気が付かないこともあるため、精神科訪問看護師が観察を通じて早期発見をする必要があります。
精神科訪問看護の仕事に就くと、どのような能力やスキルが身に付いていくのでしょうか。ここでは主な能力やスキルを3つ紹介します。
精神科訪問看護の仕事を通じて身に付く能力の一つに、さまざまな立場の人たちとコミュニケーションを取る力があります。
精神科訪問看護師は、患者さんとその家族、連携している医療チーム、所属する訪問看護ステーションなどさまざまな立場の方とコミュニケーションを取りながら仕事を進めます。
患者さんとその家族に対しては、信頼関係の構築を目指して気持ちに寄り添うコミュニケーションを取るのが一般的ですが、医療チームや訪問看護ステーションのスタッフに対しては、患者さんの病状などを正確かつ細やかに伝達するコミュニケーションを取ることが求められるでしょう。
相手やシチュエーションに合った話し方をしなければならないため、精神科訪問看護師はさまざまな立場の方に適したコミュニケーション能力が自然と身に付けやすくなります。
患者さんを観察する力も、精神科訪問看護師として働くと身に付くスキルの一つです。
精神に疾患を持つ患者さんの中には、患者さんを取り巻いている環境に対して心を閉ざしている方やうまく感情を言葉にできない方、会話の反応がゆっくりな方などさまざまな方がいます。
精神科訪問看護師はコミュニケーションに加え、患者さんを多角的に観察して精神疾患の状態や病状を判断し、適切なケアへとつなげていく必要があるため、鋭い観察力が身に付くでしょう。
一人ひとりの患者さんに合った看護サービスを提供する力も、精神科訪問看護師として働くと身に付くスキルの一つです。
精神科訪問看護で在宅ケアを担当する患者さんは、統合失調症やうつ病、アルコール依存症や薬物依存症、自閉症、ADHDやアスペルガー症候群など異なる精神疾患を抱えています。また同じ疾患名でも患者さんによって症状の重さや病状が異なることもあります。
そのため精神科訪問看護師はそれぞれの精神疾患の症状に関する幅広い知識を持ち、患者さん一人ひとりが抱える症状と向き合いながら、適切な在宅ケアを提供する力を身に付けやすいでしょう。
本記事では、精神科訪問看護の定義やその役割と精神科訪問看護に将来性がある理由、仕事を通じて身に付く能力やスキルなどを詳しく説明しました。
精神科訪問看護に興味をお持ちの方やキャリアチェンジを考えている方は、精神科訪問看護師募集サイト「ナースセブン」もご覧ください。
ナースセブンでは主に「訪問看護ステーションALWAYS」のチームの一員として働いてくれる仲間を募集しています。ALWAYSは精神科に特化した訪問看護ステーションで、経験豊富なスタッフが多数在籍しています。
精神疾患を抱える患者さんの増加や、地域包括ケアシステムの推進などにより今後も将来性が見込まれている精神科訪問看護の仕事に就きたい方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。