統合失調症は、幻覚や妄想などが現れる精神疾患の一つです。精神科訪問看護の現場においても、統合失調症の患者さんを訪問する機会があるでしょう。統合失調症を持つ患者さんに在宅ケアを行う場合、具体的に精神科訪問看護で提供できるサービスにはどのような内容があるのでしょうか。
本記事では、統合失調症の方が訪問看護で具体的に利用できるサービス内容とその受け方やメリット、統合失調症の患者さんに対する訪問看護の導入例などを詳しく紹介します。本記事を読んで、統合失調症の患者さんへ精神科訪問看護を行う際のポイントを知り、訪問看護に生かしてください。
目次
統合失調症の患者さんは、主治医が精神科訪問看護による在宅ケアが必要だと判断すると、在宅ケアサービスを受けられます。
精神科訪問看護師が統合失調症の患者さんが持つ症状に合わせたケアを提供できるよう、必要に応じて主治医や医療機関や関係者と連携を取りながら、在宅ケアを進めていきます。
統合失調症の患者さんが精神科訪問看護のサービスを受けるには、どのような流れに沿って手続きを進めるのでしょうか。
まず精神科訪問看護を利用するには、患者さんの主治医が発行する「精神科訪問看護指示書」の交付が必要です。特定の医療機関を受診していない方は、精神科のある病院を受診して、医師に精神科訪問看護を利用したい旨を伝えます。
精神科の主治医から精神科訪問看護指示書が交付されたら、希望する精神科訪問看護ステーションで訪問看護サービスが受けられるか問い合わせを行います。訪問看護ステーションによって特色があり治療方針が異なることもあるため、どの事業所を選んで良いか分からない場合は、家庭相談員や保健師などに相談をすると良いでしょう。
次に、希望する精神科訪問看護ステーションの受け入れが可能であれば、面接に進みます。面接では、精神科訪問看護ステーションのスタッフが患者さんが希望する在宅ケアの内容や精神疾患の程度、日々の生活で困っていることなどをヒアリングしていきます。
その後、リアリングで得た情報に基づいて主治医や精神科訪問看護師など連携している医療チームが患者さんに合った看護計画や治療方針を決め、患者さんと精神科訪問看護ステーションの間で訪問看護のサービス内容や料金を合意すれば契約成立です。
一般的に、統合失調症を発症すると人付き合いなどの社会性や日常動作などの機能性が著しく低下するといわれます。その症状を大きく分けると「陽性症状」「陰性症状」「認知機能障害」の3つになります。ここでは、それぞれの症状を詳しく見ていきましょう。
統合失調症の主な症状の一つは、妄想や幻聴などの「陽性症状」です。
妄想には、患者さんが誰かに追われていたり狙われていたりすると感じる「被害妄想」や見張られていると感じる「注察妄想」、自分に関連していると思い込んでしまう「関係妄想」などさまざまな種類があります。
また幻聴の症状を持つ方には、患者さんにしか聴こえない声でネガティブな内容を言われ続けるなどの症状が見られます。
一般的に陽性症状が出ている患者さんは思考の整理が難しくなるため、会話が途切れたり、支離滅裂で脈絡のない発言をしたりする症状も見られるでしょう。
統合失調症の症状には患者さんの意識が低下して無関心・無気力になる「陰性症状」もあります。
一般的に陰性症状が出ている患者さんは表情が乏しくなったり、人との関わりを避けて孤立してしまったりする傾向にあります。社交的な活動が減少すると、患者さんの社会活動や生活全般に影響を及ぼす可能性が大きくなるでしょう。
統合失調症の主な症状の一つに、患者さんの情報処理や思考能力に問題が生じてしまう「認知機能障害」もあります。
認知機能障害が出ると、患者さんの注意力が低下して目の前のことに集中できなかったり、相手の言葉の意味や意図、比喩など会話全般を理解しにくくなったりする症状が見られます。また患者さんが細かいことに強いこだわりを見せることもあるでしょう。
認知機能障害が出ている患者さんは、料理や掃除、洗濯など今までできていた日常動作の手順が理解しにくくなるケースもあるため、自分の部屋の整理整頓ができず、散らかった状態が続きがちになることもあります。
統合失調症の患者さんへ提供する精神科訪問看護サービスの内容には具体的にどのようなものがあるのでしょうか。ここでは主なサービス内容を6つ見ていきましょう。
統合失調症の患者さんが受けられる精神科訪問看護サービスの一つにバイタルサインの測定があります。
バイタルサインの測定とは、精神科訪問看護師が患者さんの呼吸数や脈拍、血圧などの数値の測定を行うことです。精神科訪問看護師が、在宅ケアを行っている患者さんの日々の健康状態を確認・記録していきます。
在宅ケアで服薬治療を行っている患者さんの場合は、患者さんに薬の副作用が出ていないかも合わせて確認します。
妄想や幻覚の有無の確認も、精神科訪問看護サービスの内容の一つです。
前述した通り、統合失調症の症状には妄想や幻覚、幻聴などがあります。精神科訪問看護師は患者さんがこれらの症状に悩まされていないか精神的な状態を把握するため、問診や観察を通じて患者さんの言動や表情などを確認し、適切な在宅ケアを行っていきます。
患者さんの日々の内服管理も、精神科訪問看護のサービス内容の一つです。
統合失調症の患者さんの中には、服薬のスケジュールを守れなかったり薬物の過剰摂取をしたりする方もいます。また自分の精神疾患の状態を理解できていない患者さんの場合は、自己判断で服薬を拒否する方もいるでしょう。
そのため、精神科訪問看護師が患者さんを訪問するタイミングで服薬状況を確認し、必要に応じて服薬スケジュールの管理などのサポートを行います。
患者さんのセルフケアのサポートも精神科訪問看護のサービス内容の一つです。
統合失調症の影響で入浴や洗面、更衣、歯磨きなど日々のセルフケアが苦手になっている患者さんもいます。そのため、精神科訪問看護師は訪問の際に患者さんの衛生状態を確認し、必要に応じてセルフケアの提案やサポートを行っていきます。
患者さんの家族へのケアも、精神科訪問看護のサービス内容の一つです。
統合失調症の患者さんの在宅ケアを継続していくには、ご家族のサポートも大切です。そのため患者さんを支えているご家族が統合失調症の病状に理解を深めて適切なサポートを行えるように、精神科訪問看護師がアドバイスを行います。
また患者さんのご家族が持つ在宅ケアへの不安や疑問、悩みなどにも耳を傾けて患者さんだけではなくご家族の心のケアを行うことも大切です。
患者さんの社会復帰に向けた支援も、精神科訪問看護のサービス内容の一つです。
精神科訪問看護師は、統合失調症の患者さんの機能レベルをGAF(機能の全体的評定)尺度を用いて評価します。その情報を主治医や相談支援の機関など連携している関係者に共有し、患者さんが社会復帰に向けて必要な支援を利用できるように調整や提案を行っていきます。
統合失調症の患者さんが精神科訪問看護で利用できる、具体的なサービスの導入例や利用手順には、どのようなものがあるのでしょうか。
精神科訪問看護の導入例に、統合失調症の患者さんの暴言・暴力にご家族が悩んでいるケースが挙げられます。このケースでは、まず精神科訪問看護師が患者さんを定期的に訪問して、服薬や観察などの在宅ケアを中心に症状を改善していくことが大切です。
また同時に精神科訪問看護師がご家族に対して統合失調症の説明を行い、症状への理解を深めながら、同居して生活をする上での対処法などのアドバイスも行っていく必要があります。そうすれば、ご家族が患者さんの症状を理解し、家族の関係性の改善につなげられるでしょう。
他の導入例として、患者さんが統合失調症を発症している認識が薄く、症状の悪化や入院を繰り返してしまうケースもあります。
この場合は、精神科訪問看護師が患者さんとのコミュニケーションを通じて、患者さん自身が自分の病気や症状への認識を深められるようにサポートを行う必要があります。患者さんが在宅ケアを通じて自分の症状を認識できると、統合失調症の治療に前向きに取り組んでくれる可能性も上がるでしょう。
その結果、患者さんの症状の悪化や入院の回数が減るはずです。
精神科訪問看護では、統合失調症の患者さんの精神症状が不安定なときでも、家にいながら医療ケアを受けられることがメリットの一つです。
統合失調症の患者さんは、外出すると精神症状が悪化するケースもあります。そのため、精神科訪問看護で在宅ケアを行うと、患者さんの通院の負担が減って治療への意欲を保ちやすくなり、結果として治療効果の向上につながりやすいでしょう。
また精神科訪問看護では、訪問看護師が患者さんのご家族と連携しやすいこともメリットの一つです。患者さんと同居しているご家族がいる場合、訪問看護師がいない間の患者さんの精神状態や行動、服薬状況などの情報を共有してもらうことが可能になります。
その結果、患者さんの詳しい状況を主治医や医療関係者と共有でき、患者さんのより良い治療に向けた医療連携がしやすくなるでしょう。
精神科訪問看護師が統合失調症の患者さんと接する際、どのようなことに注意して接すると良いのでしょうか。ここでは主に2つのポイントを紹介します。
精神科訪問看護師が統合失調症の患者さんと接する際は、妄想や幻覚の内容を肯定したり否定したりしないようにしましょう。
患者さんに妄想や幻覚などの症状が出ているときは、患者さんが感じている不安に共感を持ち傾聴しつつも、患者さんが訴える内容の真偽に焦点を当てないようにします。肯定や否定をしてしまうと、患者さんの精神状態が悪化する恐れがあるため注意しましょう。
統合失調症の患者さんと接する際は、ご家族や他職種のスタッフと連携しながら接しましょう。
先述の通り統合失調症の患者さんの中には自身の病気への自覚が薄く、薬物療法や通院などに消極的な方もいます。そのため、精神科訪問看護師が患者さんとそのご家族、医療連携しているチームとの信頼関係を築きながら、確実な医療行為に結び付けていくことが大切です。
また患者さんの中には、社会的な孤立や経済的な困窮が引き金となり、統合失調症を引き起こした方もいます。その場合、ご家族との同居の提案やヘルパーの導入など、患者さんの精神の安定に向けた環境の実現を、関係者と連携しながら進めることも大切です。
本記事では、統合失調症の方が訪問看護で具体的に利用できるサービスの詳細とその受け方やメリット、統合失調症の患者さんに対する訪問看護の導入例などを詳しく紹介しました。
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