患者さんの自宅を訪問する訪問看護では、患者さんとそのご家族に失礼がないように在宅ケアを行います。マナーを守るとよい印象を与えられるだけでなく、信頼関係も築きやすくなるでしょう。では、訪問看護師が気を付けたいマナーには具体的にどのようなものがあるのでしょうか。
本記事では、訪問看護マナーに気を配る必要がある理由と5つのマナー、患者さんとの信頼関係を維持するために注意するべき訪問時のポイントを詳しく解説します。本記事を読んで、訪問看護のプロとして訪問先で失礼のない立ち振る舞いができるようになりましょう。
訪問看護師がマナーに気を配る必要があるのはなぜでしょうか。
一般的な病棟やクリニックとは異なり、訪問看護は患者さんの日常生活の中に入り看護を行います。そのため、患者さんとそのご家族の生活を尊重し、礼儀正しくきちんとしたマナーで接することが大切です。
マナーを守ると患者さんによい印象を与えられるだけでなく「またこの人に来てもらいたい」「この人には相談できそう」という信頼関係を築くきっかけにもなります。患者さんとご家族が気持ちよく在宅ケアを受けるためにも、訪問看護マナーを心得ておきましょう。
訪問看護マナーには具体的にどのようなものがあるのでしょうか。ここでは、患者さんの自宅を訪問する際に知っておきたいマナーを5つ解説します。
訪問看護マナーの一つに、身だしなみが挙げられます。身だしなみには下記の通り服装とヘアスタイルの2つの要素が含まれるため詳しく見ていきましょう。
訪問看護師の身だしなみの要素の一つに、服装が挙げられます。
訪問看護ステーションから支給されたユニフォームを着用する場合は、自分のサイズに合っている汚れのない清潔なものを着用するように心がけましょう。
ユニフォームが無く私服で訪問する方は、襟付きのポロシャツやスクラブに動きやすいチノパンツなどのズボンを着用します。ハーフパンツやデニムは、カジュアルな印象を与えるため適していません。無地で落ち着いた色を選び、胸元が開きすぎず、前にかがんだ際に背中が見えない丈のものを選ぶようにしましょう。
また、素足で患者さんのお宅に上がるのはマナー違反です。穴が開いていたり、かかとが擦り切れていたりしない清潔な靴下を着用します。
訪問看護師は1日に複数の患者さんを訪問するため、ケア中に汚れたり雨や雪などで濡れたりするケースを考慮して予備の着替えを持っておくことをおすすめします。常に清潔な身だしなみで患者さんを訪問しましょう。
ヘアスタイルも訪問看護師の身だしなみの要素の一つです。
ヘアスタイルの規定は訪問看護ステーションによって異なりますが、基本的に長い髪の毛はまとめて、派手なヘアカラーは控えるようにしましょう。患者さんの中には匂いに敏感な方も少なくないので、整髪料を使う際は無香料のものを選ぶと安心です。
男性は清潔な印象を与えられるように、訪問の前に髭を剃っておきましょう。
挨拶や自己紹介も訪問看護師が心得ておきたいマナーの一つです。
第一印象はとても大切です。はっきりとした口調で丁寧さを意識して、笑顔で挨拶をするように心がけましょう。
例えば、初めて患者さんやご家族に会うときは「◯◯訪問看護ステーションから参りました、訪問看護師の・・と申します。どうぞよろしくお願いいたします」と自己紹介をします。言葉が聞き取りにくい方もいるので、相手から見える位置に名札をつけておくと効果的でしょう。また、マスクをしていると顔の表情が見えにくいので目や口調で表情をつけるようにします。
名刺を渡す場合は、両手で患者さんとその家族に渡します。正しい名刺交換の方法は下記の通りです。患者さんがベッドに寝ている場合は、自分の肩くらいの位置で名刺を持って渡すようにすると失礼がないでしょう。
訪問看護マナーの一つに、丁寧な言葉遣いと相手に合わせた声量・スピードでの対応も挙げられます。
訪問を重ねていくと、患者さんと距離が縮まり親しくなるケースもあります。しかし、訪問看護のプロとして、親しい仲でも適切な距離感を保つようにしましょう。患者さんやそのご家族が年上であれば、人生の先輩として、また訪問看護のお客様として常に敬語を使い、丁寧な言葉遣いで接するように心がけます。
また、患者さんの理解力や精神状態に合わせて、声量や話すスピードをコントロールしましょう。精神に疾患がある患者さんには、大きな声で話すと恐怖や不安を感じる患者さんもいます。特に電話での応対では、顔が見えないため声のトーンやスピードに注意が必要です。相手に安心感を与えられるような話し方を意識しましょう。
座る位置を心得えておくのも、訪問看護師が知っておくべきマナーの一つです。
訪問先の部屋の中では上座と下座を意識し、基本的に下座に座るようにしましょう。下座は出入り口に近い席です。
訪問看護では、患者さんやご家族と客間などで話をする場面もあるでしょう。基本的に、扉を開けた位置から手前側の椅子が下座です。扉から向かって奥の席は上座なので避けるようにして、きちんと下座を選んで座るようにします。
荷物を置く場所をきちんと知っておくのも、訪問看護師のマナーの一つです。
荷物を持ったままお宅に上がる際、患者さんやご家族に背を向けて靴を脱いで入るのはマナー違反です。正しくは、正面を向いたまま靴を脱いで上がり、利用者さんや患者さんにお尻を向けないよう体を横向きにしながら靴のつま先を玄関に向けて揃えます。
また、玄関にも上座と下座があります。下記の通り、正しい位置に靴を置き、失礼がないようにしましょう。
訪問バッグは基本的に畳や床に置き、テーブルや椅子に置かないようにするのがマナーです。仏壇がある部屋の場合、仏壇の正面に荷物を置かないように配慮します。
雨が降っている日は、濡れたレインコートや雨具を入れる大きめのビニール服を持参して、家の中が濡れないように工夫しましょう。
訪問看護で患者さんやご家族との信頼関係を維持するには、どのようなポイントに気を付ければよいのでしょうか。ここでは、注意するべき訪問時のポイントを5つ解説します。
時間厳守は、患者さんやご家族との信頼関係を維持するために気をつけたいポイントの一つです。
もし訪問が遅れる際は、速やかに患者さんやご家族に連絡を入れるのがマナーです。遅れる旨とそのお詫び、予定到着時間を伝えましょう。必要であれば所属する訪問看護ステーションにも連絡をしておきます。
遅刻は厳禁ですが、予定時間より早すぎる訪問もマナー違反に当たるので注意しましょう。
予定訪問時間の5分前までに患者さんの家の前に到着し、上着を脱いで腕に掛けた状態で待ち、時間ぴったりにインターホンを鳴らすようにします。
トイレや洗面所を借りる際は一声かけてから使用するのも信頼関係の維持のために気をつけたいポイントの一つです。
基本的に訪問先ではトイレを借りないのがマナーです。患者さんの自宅近隣にある公共施設のトイレを把握しておき、訪問前に済ませておくようにします。
どうしても我慢できないときは、まず「お化粧室をお借りしてよいですか」と丁寧にお伺いを立てます。許可を得て使用した後はきちんと蓋を閉めて退室し「ありがとうございました」とお礼を伝えましょう。
洗面所を借りたい際も、患者さんのプライベートな部屋に立ち入るので使用の許可を得てから入室します。こちらも、使用後のお礼を忘れずに伝えておきましょう。
訪問看護ではお茶やお菓子を受け取らないのも、信頼関係を保つ上で大切なポイントの一つです。
訪問看護師は「お客さん」として自宅に上がっている訳ではありません。患者さんやご家族が訪問看護上の「お客さん」に当たるため、お茶やお菓子のもてなしを受けるのは立場的に適していません。
訪問看護の契約時や初回訪問時に「お茶やお菓子は頂かない方針ですのでどうぞお気遣い頂かないようにお願いいたします」と丁重に断りを入れておくとよいでしょう。
しかし、患者さんやご家族によっては、日本の来客のマナーに従ってお茶を出したり、訪問看護師への感謝や労いの気持ちを込めてもてなしたりするケースも少なくありません。何度も拒否し続けるのも失礼に当たるため、続く場合は「次回からはお気遣いのないようお願いいたします」と断りを入れて臨機応変に対応するとよいでしょう。
患者さんとご家族のプライバシーに配慮するのも信頼関係を維持するために必要なポイントの一つです。
患者さんのお宅では入室の許可を得た部屋以外には立ち入らず、必要があれば許可を得るようにします。許可を受けて入室している部屋の中でも、部屋の中をじろじろと眺めるのは患者さんの不信感を煽る可能性もありマナー違反に当たるので避けましょう。
また、プライバシーに配慮して、所属する訪問看護ステーションの外で患者さんを特定しやすい内容の話をしないようにしましょう。
特に、患者さんの自宅の近所や、訪問看護ステーションの近くでの会話は誰が聞いているか分かりません。通りかかった方が患者さんの知り合いだったケースや、地域の方が耳にした話が患者さんまで伝わってしまうケースも少なくないでしょう。
思わぬ形で会話の内容が広まるとトラブルにつながる可能性もあるので、患者さんに関する情報は訪問看護ステーション内に留めるようにします。
ニオイに気を配るのも信頼関係を維持するために注意したいポイントの一つです。
ニオイには、下記のようなさまざまな種類が考えられます。
精神科訪問看護では、ニオイが刺激に感じる敏感な患者さんも少なくありません。着ている衣服の洗濯洗剤や使用している制汗剤などのニオイがきつくないか確認しましょう。基本的に香水の使用は控えるのもマナーです。
特に喫煙習慣のある患者さんを訪問した後は、衣類や髪の毛にタバコ臭さが染み付く可能性が高いため、着替えを持参したり、臭いを消す無臭のスプレーを用意したりして対策をすると安心です。
喫煙習慣のある患者さんの後に訪問する方がタバコのニオイに敏感な方であれば、あらかじめ対策をした上で「喫煙される方を訪問しておりましたのでタバコ臭いようでしたら申し訳ございません」と断りを入れましょう。あらかじめ断りを入れると、「きちんと気遣ってくれているんだ」とプラスの印象を与えられます。
本記事では、訪問看護マナーに気を配る必要がある理由と5つのマナー、患者さんとの信頼関係を維持するために注意するべき訪問時のポイントを解説しました。
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